紅茶のお供にキスを

 ポットが傾けられると、紅いお茶がなめらかにカップへと注がれ、甘い香りがあふれた。姫様は嬉しそうに微笑んで、ポットを元の位置におく。と、注ぎ口からぽとりと一滴落ち、白いテーブルクロスに染みを作り、姫様は残念そうに眉を寄せた。
「あーん、せっかく綺麗に注げたと思ったのに」
「でも、とても良い香りですよ。それに私は、とても嬉しいです。姫様が私のためにお茶を入れてくださるなんて」
 姫様はたちまち花のように微笑み、私に砂糖つぼを開けてくださった。
「いくつ入れる?ひとつでいいかしら?」
「ありがとうございます」
 注意深くスプーンに乗せ、角砂糖がそろりとカップに浸みていく。下からすっと赤く染まって、すぐに崩れて底に溜まった。
「どうかしら」
 ティースプーンでかき混ぜて、私はカップに口をつけた。砂糖は一つしか入れていないのに、蜂蜜よりも甘い気がして。
「とても美味しいです、姫様」
「お世辞は要らないのよ。正直に言って。何言われても怒らないから」
「そうですか。では申し上げますと、沸騰直後でなく少し置いたお湯を使われましたね?もしくは、冷たいポットに注いでなおかつ蒸らす時にティーコジーを使わなかったか。いずれにせよ、要するに紅茶としては少々ぬるいかと。それに、もう少し蒸らし時間も必要ですね。お味が十分に出ていれば、もう少し香りも立つのでしょうに。姫様がせっかちに過ぎるからこんなことになって、実に残念です。僭越ながら点数をつけるなら、30点というところでしょうか」
 ぽかんとして私を見ている姫様に、今度は私がにっこり微笑んだ。
「でも、とても美味しいですよ」
「正直に言って、とは言ったけど……」
 恨めしげに、上目遣いで見つめられて、私はおもわず笑いをこらえきれずに。
「そんな顔、しないでください。ますます好きになってしまうじゃないですか」
 姫様の手を引き寄せて、ポットに重ねて差し上げて。
「もう一杯、いただけますか?じっくり味わわせていただきますゆえ」
「今度はこっちが味わう番よ。悔しいぶんだけ、仕返しするわ!」
 姫様の唇が顔に飛んできて、あちこち食べられて、両手で姫様を抱きとめて。弾みでスプーンが落ち、地面にあたって軽く跳ねて、それでも姫様はキスをやめない。短いの長いのと様々なキスがぶちまけられて、二人笑い出してしまう前に、私はあなたをなんとか押しとどめて。
「姫様、姫様!順番というなら、今度は私の番ですね?」
 カップの紅茶を口に含み、すかさずあなたに口付けた。ほんのわずか、あなたの唇に流し込んで、すると残りはあなたの頬から首筋、服に垂れ、襟を汚す。指先でその雫をすくい上げ、姫様がこんなに可愛らしいから、ほら、また好きになってしまう。私は幸福に酔いしれながら、次の姫様の『順番』を待った。

歯が浮きそうな20のセリフ [TOY] http://toy.ohuda.com/
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