ずるいあなた

「ねえ、もう一回言って」
「何をですか?」
 闇の中手探りにあなたの手を探し当て、頬に当てた。
「意地悪ね。ついさっき、私に言ったことよ」
「姫様。そんな遠回しな言い方ではわかりません。はっきりと仰っていただかないと」
「ずるいのね!」
 見えない姫様の拳に、軽く背中を叩かれて。軽く、と言ってもけっこう痛い。
「乱暴はいけませんぞ、姫様」
 ブライ様の声真似で答えると、姫様の吹き出される気配。
「もう、クリフトったら。ふざけないで」
「姫様がお悪いのです。でもまあ、いつものことですよね」
「だからそうやってすぐ話題を反らすんだから。ねえ、言って」
 見えないけれど温かい、あなたの輪郭を指でなぞった。
「何を、ですか……?」
 耳元で囁くと、あなたの身体が倒れこんできた。両腕で取り込み、抱き上げ、あなたの髪をかきあげて、耳たぶに直接唇を当てる。
「何を聞きたいんですか。アリーナ」
「どうしてそんなに、ずるいの。私、何も言えなくなっちゃうじゃない……」
「何も言えなくしてほしいのなら、そう言ってみてください」
 あなたが何も言えないのは織り込み済みで、私は片手で暗闇をまさぐった。温かいものが触れたので、そっとすくうように持ち上げる。声にならない声をあなたが小さく叫び、私はなおも囁いた。
「それにあなたが何を言ってほしいのなんて、とっくから知っていますよ」
「……なら、言ってよ」
「それでは、私をうまく誘ってみてください。上手にできたら、ご褒美をあげましょう」
 うたうように私は言い、すかさず甘い唇を深く塞いだ。
 あなたがこれ以上、何も言えないように。
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