いくらでも愛してあげるのに

 背中に薬草がたくさん入った袋をしょって、みんなの待つ宿屋に向かった。買い出しも疲れるものではあるが、誰かがやらなきゃしょうがない。それにしてもさっきから……私は背後を振り向き、勇者に声をかけた。
「不機嫌ですね」
「べっつに」
 勇者はセリフとは裏腹のイライラ顔で、むやみに草むらを蹴っ飛ばした。
「そんなに不意打ちされたのが悔しかったんですか?」
「不機嫌じゃないって言ってるだろ」
「機嫌が良さそうには見えませんけどね」
 私が微笑みを隠さないでいるのが、彼の気に障ったようだった。
「お前だ。お前が俺を苛々させんの」
「なにがですか?どこがですか?」
「そういうところ!」
 勇者は不意に振り返り、私の顎を片手でがっちり掴んだ。
「いつもいつも澄ました顔しやがって。むかつきすぎて、時々ぶっ飛ばしたくなるよ」
「やってみればいいじゃありませんか。ちょっと待って下さいね、スクルト、スクルト!はい、いつでもどうぞ」
 にっこりと首を傾けた私に、彼は舌打ち。
「そういうところもむかつく。全くお前は、悪趣味だよ」
「では、その悪趣味な私がこよなく愛するあなたは、相当なゲテモノということで宜しいので?」
 いきなり殴り掛かられる。私は苦もなく、ひらりと身をかわした。
「なんでそういうこと平気で言えるわけ?どうしたらいいかわからなくなって、きりきり舞いさせられるのはもうごめんなんだって!」
「どうしたらいいかは自明の理でしょう。素直になればいいんですよ、不意打ちをけして恐れずに」
「それはお前の理屈だろ」
 私は身を翻して、彼の背後に囁いた。
「あなたにも当てはめればいいだけのこと、でしょう?それとも私がお嫌いですか」
「そうじゃないけど、さ。ただ時々すげーむかつくだけ」
「嫌いじゃないんですか、それは嬉しいですね。では逆に、私のどんなところを好きでいてくれますか?」
 彼は口を尖らせ、むくれた。
「嫌いな所言うより好きな所言うほうが難しいんだけど」
「それは残念。言ってくれれば……いや、やっぱりやめておきましょうか」
「なに?なんだよ!」
 とたんに食いつくところが、彼の可愛らしいところだ。私は再度にっこり微笑む。
「言ってくれれば、ですよねー」
「空っとぼけるなよ!」
 勇者は急に私の両肩を掴んでがくがく揺さぶる。っと、いくらなんでも激しすぎやしませんか。まあ、あなたのそんなところが、私にとっては一服の清涼剤。そして、心から心からあなたのことが愛しくてたまらなくなるんです。
「ここでとぼけずに、いつとぼけるんですか。私にとってこんなに楽しい事はありませんよ」
「だけど……だけど、そんなこと言えっかねーだろ」
 ぷいと横を向いてその表情は見えなかったけれど、私にはそれで充分で。
「じゃあ言いますね。言ってくれれば、あなたが欲しい分のそれ以上でも、いくらでもあなたを」
「やっぱいい。今は聞かない」
「じゃ、後で言わせて下さいね」
「……後でな」
 彼はまた舌打ちをして、ざっざっと先へ歩を進めた。今夜も楽しい夜になりそうだ、どんな不意打ちを仕掛けようか。私はこっそりとまた微笑んだ。

組込課題・台詞 リライト http://lonelylion.nobody.jp/
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