1:ハロウィン/sweet ver.

夜も更け、さて寝ようかと灯りを消した途端。
コツコツ、コツコツ。小さくドアをたたく音。
「どなたですか?」
ドアに耳を近づけ、気配を探れば聞こえる衣擦れ。
私は少しだけ笑って、細心の注意を払ってそっとドアを開ける。
「こんな夜更けにどうされたのですか、姫様?」
「Trick or treat!お菓子をくれなきゃイタズラするよ?」
目の前には、大きなシーツの固まりがゆらゆらしている。
思わず吹き出しながら、その頭の部分をぽんぽんたたいて差し上げた。
「姫様。お戯れもほどほどに」
「私は姫様じゃないわ。クリフトを呪いに来たお化けよ」
「……そんな格好で?」
シーツの下の“お化け”はこらえきれずに肩を振るわせている。
夜の静寂の中、こんなところで爆笑されるのも私にとっては甚だ迷惑。
「仕方ありませんね。悪い子にはお仕置きです」
私は布の固まりごとぎゅっと抱きしめ、素早く部屋の中に引っ張り込んだ。
身をひるがえして、背中でドアを押して閉める。
「それで、どんなお菓子が欲しいんですか?」
真っ暗闇の中、私はあなたの耳元で囁いた。
白い“お化け”は私の腕の中で身をよじらせる。
「ねえ、……」
「え?なんと仰ったのですか?」
「私の欲しいものは、ね」
あなたの熱い息が、私の胸を温める。
「……欲しいものは?」
「クリフトのくれる甘いもの、全部」
私は低く笑って、あなたを抱く腕に力を込めた。
「全部をお渡しするには……そうですね」
左手であなたの腰を抱き、右手でシーツを少しずつ引きずり降ろす。
「今夜一晩中かかっても、まだ足りないでしょうね」

続き→【2:アフターハロウィン/very bitter ver.※激苦注意
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